DECIMATION~選別の贄~
その日の朝、想次郎は普段に増して入念に身支度を整えていた。
鏡を何度も見ては一つの誇りすらスーツについていないことを再三確認する。
髪は乱れていないか、ネクタイは真っ直ぐか、それらに一時間も費やした。
そして独り暮らしをしているマンションを出る。
眩しい日差しが目をつく。
「さぁ、勝負の日となるのかな?」
鍵をかけて、廊下を渡りエレベーターを降りる。
想次郎は気持ちを落ち着ける。
今日は人事部の人ともう会食をする予定が入っていたのだ。
新入社員の想次郎が入社から間もないタイミングで食事に誘われたのはただの顔合わせなどではない。
短い期間ではあるがその仕事ぶりから実力を認められたのだ。
歩く姿も普段に増して堂々としている。
それは菜月といる時には決して見せない表情であった。
闘志に満ち満ちた瞳、張った背筋には自信が伺える。
約束の場所へと向かうために、想次郎はタクシーに乗り込んだ。