DECIMATION~選別の贄~
着いたのは都内にある、とある有名な老舗料亭であった。
厳かな印象すら受ける門構え。
松の木が庭の真ん中にそびえ立ち、池では赤と白のコントラストが美しい大きな鯉が泳いでいる。
敷き詰められた砂利は軽快な音を刻み、奥の間に近づくと女将が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。
長澤様はまだ要らしておりませんので、お部屋でゆっくりとおくつろぎになられてはいかがですか?」
髪を後ろで結わえた女将。
丁寧な口調だが想次郎はその接客態度の中にどこか監視の様な視線を感じ取っていた。
「選別はすでに始まっている……という所かな?」
想次郎は不敵な笑いを殺して女将に笑顔を送る。
「ではそうさせて頂こうと思います」
女将はゆっくりと引き戸を開け、想次郎を中へと誘う。
綺麗な目の畳が敷かれた広い和室。
木彫のテーブルが真ん中に座り、その存在感を知らしめるように他の家具は一切ない。
唯一のものは鑑定書でも添えられていそうな巻き軸がひとつであった。
厚みのある座布団が二つだけ。
「素敵な部屋ですね」
「ふふ、ありがとうございます。
それではしばらくお待ちください」
そう言って女将は戸を閉める。
想次郎はひとしきり辺りに目を配りそして下座に腰を据えた。
目を瞑り心を落ち着ける。
「これが始めの一歩さ」