DECIMATION~選別の贄~
それから五分。
離れの外から砂利を踏む音が近づいてきた。
足音からして1人。
「女将?」
想次郎はゆっくりと立ち上がる。
音はどんどん近づいてきて、人影が浮かび上がる。
それは長身の女将よりも小さいシルエットで、しかしそれとは正反対のどこか威圧的な雰囲気を醸していた。
「待たせたかね?」
年老いた低い声。
想次郎はその一言で瞑想によって落ち着きを取り戻していた心臓が再び激しく波打つのを、どこか爽快感さえ覚えそうになった。
想次郎はその陰の手を煩わせぬ様にすぐさま戸を開いた。
そしてその表情を確認する間もなく頭を深々と下げて出迎える。
「この度はご足労頂き実にありがとうございます。
お顔を拝見するのは初めてになりますね、長澤人事部長殿」
想次郎はゆっくりと顔を上げる。
「堅苦しいのは苦手でね、まずは茶にしよう」
長澤はすたすたと奥に進みテーブルに肘を置いて腰かける。
白髪に、刻まれた深い皺、着なれた和装そしてその対峙したものを見定めるような悪戯な笑顔が恐ろしいほどに様になっている。
想次郎は一呼吸の間、その姿に見いられていたがすぐに茶の準備をする。
一挙手一投足、一呼吸までもを見定められる感覚。
手足の先の感覚すらなくなりかけながら想次郎は二人ぶんの茶を注ぎ、長澤の向こう側に向かい合い腰かける。
「どうぞおあがりください」
「私は会話を第三者には聞かれたくない質でね、ここの女将が淹れる茶は絶品なのだが、今日は秘書の山崎にも女将にもご遠慮願ったのだよ」
そう言いながら長澤は茶をすすってあからさまに眉間に皺を寄せてすぐに湯飲みを置いた。
「不味い茶だ」
「はっ、申し訳ございません」
すぐに謝る想次郎の態度に、長澤は少し残念そうな表情で頬杖をついた。
そして低い声で言う。
「君は今何故謝ったのだね?」
「えっ、あ……」
言葉に詰まる想次郎、長澤は間髪入れずに言葉を続ける。
「君は美味い茶を入れるためにこの会社に入り、今この場に腰を据えているのかね?
女将は美味い茶と美貌と、会話で客を喜ばせる為にここに居る。君が淹れた茶が不味いのは当たり前。
さぁ、君は何のためにここに座っているのかな?」
今日一番の悪戯な笑顔で長澤は想次郎にそう問うのだった。
離れの外から砂利を踏む音が近づいてきた。
足音からして1人。
「女将?」
想次郎はゆっくりと立ち上がる。
音はどんどん近づいてきて、人影が浮かび上がる。
それは長身の女将よりも小さいシルエットで、しかしそれとは正反対のどこか威圧的な雰囲気を醸していた。
「待たせたかね?」
年老いた低い声。
想次郎はその一言で瞑想によって落ち着きを取り戻していた心臓が再び激しく波打つのを、どこか爽快感さえ覚えそうになった。
想次郎はその陰の手を煩わせぬ様にすぐさま戸を開いた。
そしてその表情を確認する間もなく頭を深々と下げて出迎える。
「この度はご足労頂き実にありがとうございます。
お顔を拝見するのは初めてになりますね、長澤人事部長殿」
想次郎はゆっくりと顔を上げる。
「堅苦しいのは苦手でね、まずは茶にしよう」
長澤はすたすたと奥に進みテーブルに肘を置いて腰かける。
白髪に、刻まれた深い皺、着なれた和装そしてその対峙したものを見定めるような悪戯な笑顔が恐ろしいほどに様になっている。
想次郎は一呼吸の間、その姿に見いられていたがすぐに茶の準備をする。
一挙手一投足、一呼吸までもを見定められる感覚。
手足の先の感覚すらなくなりかけながら想次郎は二人ぶんの茶を注ぎ、長澤の向こう側に向かい合い腰かける。
「どうぞおあがりください」
「私は会話を第三者には聞かれたくない質でね、ここの女将が淹れる茶は絶品なのだが、今日は秘書の山崎にも女将にもご遠慮願ったのだよ」
そう言いながら長澤は茶をすすってあからさまに眉間に皺を寄せてすぐに湯飲みを置いた。
「不味い茶だ」
「はっ、申し訳ございません」
すぐに謝る想次郎の態度に、長澤は少し残念そうな表情で頬杖をついた。
そして低い声で言う。
「君は今何故謝ったのだね?」
「えっ、あ……」
言葉に詰まる想次郎、長澤は間髪入れずに言葉を続ける。
「君は美味い茶を入れるためにこの会社に入り、今この場に腰を据えているのかね?
女将は美味い茶と美貌と、会話で客を喜ばせる為にここに居る。君が淹れた茶が不味いのは当たり前。
さぁ、君は何のためにここに座っているのかな?」
今日一番の悪戯な笑顔で長澤は想次郎にそう問うのだった。