DECIMATION~選別の贄~

想次郎は直感的に長澤の言葉の意図を理解した。

「利益を生むだけの秀でた部分があり、存在価値がなければ必要ない。更にTPOにそぐわなければその秀でた部分さえ必要ではなくなる。と言う事ですね」

長澤は瞬時に冷静にそう言い放つまだまだ青臭さの残る青年を見て頬を緩める。

「・・・で君の価値とは?」

想次郎は今度は即答しなかった。

しばらく目を瞑り意識的に間を置いた。

急な強い風が戸を叩く音がしばらく響いて、ゆっくりと想次郎は目を開け長澤の瞳を真っ直ぐに見つめる。

長澤はその間ずっと目の前だ溺れるかの如く思考を巡らせる青年が、その濁流の淵から這い上がってくる様を眺めていた。

「僕には野望があります。守りたい人がいます。ただ今の僕ではその人を守ることができません。

希望の部署では現場の作業員達が文字通り命を掛けて日々作業に取り組んでいると聞きました」

長澤は前置きを嫌う。

それは真の意図を修飾しているように錯覚させる蛇足以外の何物でもないものであると考えているからだ。

普段ならば話を遮ってでも真意を話すよう促しただろう。

それをしなかった真意は至極明瞭なものである。

「命を守ることを僕は渇望しています。それは善意をいとも簡単に凌駕するほどなのです。

僕は例え会社の意向と正反対の道に進もうと、ある視点から見れば反社会的な位置づけに身を置こうとも”最も生命に危険のある仕事”を安全かつ効率的に作業をするためのシステム開発に尽力致します」

すでに決まっていたのだ。

簡単に濁流に飲まれる危うさすら埃ほどに感じてしまうほどの信念に、長澤は心地よい感動を覚えていたのだから。

長澤はゆっくりと立ち上がる。

想次郎は視界の隅に離れていった年老いた男の顔が確かに綻んだのを見た。

「できるだけ早くに君を希望の部署に送ることができるように手続きをしよう。

期待してるぞ、君がもがき溺れる様を」

それだけ言い放って長澤は出て行った。

砂利を踏む音が最初に聞いたよりも軽快なリズムで夜の風の音に消えていった。



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