DECIMATION~選別の贄~
愛知県某所にある外資系企業。
オフィスビルの一角で先週中途採用され入社したばかりの若い女性がコーヒーを淹れている。
佐竹 由奈は京大卒の優秀な新人で、明るいロングの茶髪をなびかせる。
背は高くもなく低くもないが、モデルの様な体型と少し幼さを感じる可愛らしい女性であった。
そんな部下に男性社員達の注目が集まらないわけもなく、彼女の淹れるコーヒーに毎日癒されている職員は少なくない。
「コーヒー淹れました、どうぞ」
佐竹は笑顔でそう言って淹れたてのコーヒーをデスクの端に置く。
「おっ、佐竹くんありがとう。もう仕事には慣れたかい?」
「久保田さんありがとうございます。
はい、皆様のおかけで少しずつ慣れてきました」
入社してから朝のコーヒーを淹れるのが佐竹の日課になったいた。
久保田はデレデレに顔を崩して嬉しそうにコーヒーを飲む。
だいたいの男性職員はこんな感じであったが、ただ1人だけ佐竹のコーヒーに違う反応を示す職員がいた。
その時、デスクの端に出ていた資料の一枚にコーヒーカップがわずかにかすめてしまう。
「おい小娘、なに人の資料汚してんだよ」
コーヒーが溢れたわけでもなく、水滴で皺が出来たわけでもない。
ただコーヒーカップの底の端がほんのわずか触れただけで、その男は激昂して社内に響き渡る声で佐竹を怒鳴り始めた。
「すいません。すいません」
「すいませんで済むか、あ?
てめぇのせいでこの仕事落としたらどうしてくれんだよ、大事な客に渡す資料汚してすいませんで済むわけねぇだろうが!!このクズ」
佐竹はほとんど自分に落ち度がないことも知りながら何度も頭を下げて謝罪をする。
「櫛田さんまた始まったよ……」
「佐竹さん可愛そうに」
遠巻きに見る社員は誰も止めようとしない。
それどころか巻き込まれることを恐れているのか、誰1人として目を向けることすらしていない。
しばらく罵倒が続く。
「本当に申し訳ありませんでした」
「もう良いよ、どっかいけブス!」
気の済むまで怒鳴り散らして、満足したのかその男はまたパソコンに向かうのだった。
佐竹はこぼれ落ちた涙を袖でぬぐって席を離れていった。