DECIMATION~選別の贄~

櫛田 一政、地方の田舎者と侮辱されてきた大学生活。

それをバネに身体を壊すまで勉学に励む一方で、他人との交流をほとんど絶つ生活をしていた。

出身大学は知らぬ人いない東大。

この会社に入る前までは関東の老舗の保険商社で企画をしていた。

「ちっ、あの女顔だけのブスだな。

使えねぇ、使えねぇ」

櫛田が休憩室に入ると貸しきりであることが多い。

本人も薄々と気付きながら習慣ともなりつつこの状況が、他の社員が意図的に櫛田を避けているからだと理解しながら考えないようにしている。

だらしなく伸びてしまった髪を左手でぐしゃぐしゃと掻き、右手の親指の爪を噛み始めた。

「ったく、なんで世の中こんな使えねぇやつばっかなんだよ。

社員もクソ、社長もクソ、こんな会社すぐに辞めてやらぁ」

日常的に歯をたてているのだろう右手の指全ての爪はガタガタになっている。

櫛田は鼻息を荒くしながらカタカタと世話しなく震える足を無意識にさすっていた。

「くそ、またずれてる」

ふいに立ち上がると、櫛田は観葉植物の位置を動かし始めた。

どうやら前回と若干位置が変わっていたようだ。

数ミリ動かしては少し離れた場所から位置を確認する。

「くそっ、ちげぇよ。

あの掃除のババアまた適当な仕事しやがって、雇い主は何考えてあんなブタ雇ってんだよ」

ブツブツ文句を言いながら鉢を動かしては確認する繰返し。

端から見たら差など分からないほどの位置をなおして、イライラしながらまた座った。

すぐにカタカタと椅子が音をたてだす。

櫛田は自分が他者とは隔絶された者だと自覚していた。

「あー、だめだ。

また我慢できなくなりそうだ」

何かを渇望した鋭い瞳に変わる。

机に頭を抱えるようにして呟いて櫛田は休憩室を後にするのだった。



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