DECIMATION~選別の贄~
会社に戻ったら佐竹はまたいつものメンバーでランチをしていた。
仕事が押したための少し遅めのランチ。
「ねー聞いてよ、またフラれたぁ」
弁当箱を開けての第一声は国塚のそんな嘆きだった。
「まぁ、カナちん飽き性だからね」
「えっ、私が!?」
「またどうせ夜の営みがマンネリ化してきて連絡事態お粗末になっちゃったんでしょ?
そりゃ相手だって別れを覚悟するよ。ね、由奈?」
「んー?あー、うん」
「て、あれ?由奈さん?」
上の空な返事をして小さな口で箸を進める。
話題が気にくわなかったのか、国塚はすぐに真面目な話を持ち出す。
「てか知ってる?例の事件また起こったらしいよ」
急な声のトーンの下がりかた。
中山は二人を小さく手招きして、耳を近づけるように合図を送った。
二人はゆっくり耳を近づける。
「なんでも今回はうちらのいる街の隣の男性が犠牲者だったらしいの。確か被害者の名前は福田 誠だったっけ。
その人は独り暮らしの自宅のベッドで横たわりながら死んでいて、かけつけた警察がその布団を上げると……」
「上げると?」
中山は心霊番組でもお送りしているかのような若干長めの間を置いて小さく言うのだった。
「刃物か何かで開かれたお腹のなかから五臓六腑全てが抜き取られていたんだって」
国塚は手で口を押さえながら小さな悲鳴をあげて後ずさった。
佐竹は放心状態なのかゆっくりと背もたれに背中を預けていく。
「これで県内で死体から内臓が抜き取られる事件は三件目。
テレビのコメンテーターが言うにはもう連続的な計画殺人であることはほぼ間違いないって」
ビルの下には数知れぬ人が世話しなく街を行き交っている。
この人混みの中にまだ捕まっていない猟奇殺人犯が居てもおかしなことではないのだ。
「死体から内臓取ってくなんて何で?意味わかんないんだけど」
国塚は人並みの精神的苦痛に見舞われていた。
こんな話聞いて平気でいられるほうがおかしい。
「始めは臓器売買かもしれないとか報道されてたけど、それにしては犯人のやり口は医学的な知識に乏しすぎるんだって。
金銭が目当ての臓器売買が目的でないとしたら後は一つ。
スーベニア的殺人」
中山は火曜のサスペンス好きと元々の読書好きとが合間って、サスペンス、ミステリー系の小説の有名どころは読破。
今では犯罪心理学の本にまで手を出し始めていた。
「スーベニア的殺人?なにそれ?」
ここまで恐怖を煽られてしまっては、逆に今さら話題から下ろされてはより恐怖が増幅するというもの。
国塚は震えながら聞くのだった。
「スーベニアつまり戦利品のこと。
自分が殺人を犯した実感と快感を持続させるために遺体から身体の一部や衣服などを奪い差って持ち帰る精神異常者のやり口よ」
「そんな、そんなやつがこの街の近くに居るって言うの?」
県警は普段の三倍近いパトロールカーを動員して町中の警備に当たっていた。
られでも人々から拭える恐怖など塵にも等しい。
「なんでもそういうやつは極度の強迫観念に囚われていたりするらしいから、櫛田とか本命かもね」
「まじで!?
ちょっと由奈気を付けてよね!」
中山の話を聞いて本心から警告する国塚であったが、本人の佐竹はどこかぼーっとしていた。
「由奈?どうしたの具合悪いとか?」
「へっ、そんなことないよ……あっ」
箸から滑り落ちるタコさんウインナー。
コンクリートにぼとっと音を立てて落ちた。
「やっぱり由奈おかしいよ。なんか変にぼーっとしてるし」
「由奈もやっぱり怖くなったんだよね。
もう金輪際あいつに近づかないほうが良いよ!ね!」
二人の言葉も聞こえていないのか転がったウインナーを見つめている。
「それとも、恋わずらいでさっきの話なんて頭に入ってなかったか?」
自分の振った話題が原因で放心状態にさせてしまったとあれば気が気でないので、中山は無理矢理に場の雰囲気を変えようと試みた。
「男にちやほやされ続けるもなかなか恋愛に発展しない隠れ乾物系女子の由奈が恋なら、今のこの状況も納得いくってもんじゃない」
国塚の注意を聞き捨て中山の言葉は続いた。
佐竹は落としてしまったウインナーを手で拾って、弁当箱の蓋に置いた。
手に少しの砂利の感覚があった。
「ううん、そんなんじゃないよ。
ただ私は汚れて欲しくないだけ」
「……?」
佐竹の言葉に二人はまた首をかしげる。
「うん、私決めた」
「え、由奈?」
「ちょっと由奈、あんたどこいくの?ねぇ?」
二人の声も虚しく、佐竹はツカツカと階段を降りて去っていった。