DECIMATION~選別の贄~
都心を手を繋いで歩くコート姿の二人。
振り返る人のなかで幾人かは口を揃えた。
「なにあれ?レズビアンカップル?」
身体を隙間なく寄せあって手を握る二人の女性に嫌でも視線は集まった。
しかしその不自然さは人々の不振の目を容易く飛び越えていたので、誰一人として怪しむ者は居なかった。
「……由奈、ちょっと待って」
その一人は連絡の途絶えていた中山であった。
「ねぇ、待って」
佐竹は足早に大きなスーツケースと中山を引っ張る。
髪の毛は真っ黒になり、男性と見紛うほどに短髪になっていた。
「黙って付いてきて、あなたは利用価値があるから連れてきただけ。
もし何か私の計画の支障になるようなら、あなたもこの中のコレクションの一部になるわ」
冷酷な瞳を向けて、淡々とそう言い放った。
中山は自主の説得を試みようとしたのかもしれないが、佐竹のただならぬ狂気に押し黙る。
中山は一昨日。
偶然にも佐竹の家を訪れてしまった。
理由は至極簡単で、ただ借りていたDVDを返そうと思っていただけだった。
中山が佐竹の家に着くのと同時刻に佐竹は逃亡の準備を手早く済ませていた。
元々、計画のうちにあった為準備は万端だった。
全てのコレクションと愛でられた、四人の臓器をスーツケースにしまっている途中。
夢中になりすぎてインターホンの音と、いつもなら無意識にかけている玄関の鍵とチェーンを閉め忘れていたことに気付かなかった。
インターホンに答えない佐竹を心配して中山がドアノブを捻ると扉は開いた。
部屋へと向かう途中で物音がして、その方向に目を向けると、ぶつぶつと何かを呟きながら臓器入りのケースをスーツケースに入れている中山を見てしまったのだった。
今の状況を正確に冷静に判断するだけの考えは及ばず、中山は思わず声を出してしまった。
そして振り返る佐竹はがたがたと震える中山の腹にナイフを当てながらただ一言呟いた。
「一緒にこなければ、ぶちまけるよ?」
目を見開き声にならない悲鳴をあげた時、手元で鉄が擦れる様な音がした。
視線をそこに落とすと、自分の左手と佐竹の右手とが手錠で繋がれていた。
「……由奈、なんでこんなこと」
コートの下で手錠が擦れて音をたてている。
しかしそんな些細な音はスーツケースをひく車輪の音でかき消されていく。
スーツケースの中身を完全に見たわけではない。
まだ中山の中では佐竹が連続殺人の犯人だと断定できるはずもなかった。
それでもその時の佐竹の表情と常軌を逸した行動から疑いを持たずにはいられなかった。
左手を掴むこの細いカサカサの指の持ち主が殺人鬼で、何かしらその事件に関係するものを自分が見てしまったのだとしたら。
恐らくこのまま事が進んでいけば自分も殺されてしまう。そんな不安に怯えながらも歩く以外に方法はなかった。
そうして中山は手を引かれるがままに狭い路地の中の、古びた小屋に入っていった。