DECIMATION~選別の贄~

小屋の中は埃だらけで、中山は見ていなかったが外には廃れた看板に国有地と書かれていた。

佐竹はスーツケースを置いてまるで中山とは手錠で繋がれていないかの様にズカズカと上がり込んだ。

それに引きずられるように中山も部屋にあがる。

「……由奈ここは?」

目に見えるほどの埃が、二人がわずかに歩いただけで舞った。

その時、佐竹の様子が可笑しいことに中山は気付いた。

「由奈どうしたの?」

表情は固まり歯を食い縛っている。

その力は過度にかかりすぎて、震えるように歯をカタカタと打ちならしている。

「……ない」

「由奈?どうしたの、由奈?」

純粋に心配して中山が顔を覗き込むと佐竹は睨み付ける。

そして発狂した。

「汚い汚い汚い汚い!

埃も!あんたの手も!砂も血も全部汚いのよ!」

佐竹は急に四つ這いでスーツケースめざして駆け出した。

その勢いで中山は倒れ込み、顔を床に擦り付けたままで二メートルほど引きずられてしまった。

佐竹は狂乱して震える手でスーツケースを開いた。

「……ひっ」

中山は目の前に広げられるスーツケースの中身に気を失いそうになった。

「これって内臓?まさか……人の?」

瞬間的な過大な精神的ショックで中山はその場で嘔吐した。

胃の中の物が全て出きるほどに床にまきちらす。

「てめぇ何してんだよ!

この子達にゲロ付いたらどうしてくれんだよバカ!」

佐竹は嘔吐物が付かないようにすぐに広げたコレクションを移動させていく。

「くせぇやつだな。

てめぇのゲロなんだからてめぇが始末しろよな」

「そんな、うぅ」

中山は涙をぼろぼろと溢す。

そんな姿にまでなった女性を平気で罵倒し続ける佐竹にはもはや人間味すら感じられなくなっていた。

佐竹はありとあらゆる罵詈雑言を中山に投げつけて、自らのコレクションを愛で始めた。

「ああ誠くん、壮介さん。

良かった皆大丈夫なのね」

それぞれのケースを手にとって愛しそうに見つめては話しかける。

その時、近くで物音がしたことなど気づきもせず。

「一政さんもビックりしたでしょう?せっかく内に来れたのにお引っ越しだもの。

でもね、皆大丈夫よ。私ちゃんと次のお家も用意してるから、もう少しだけ待ってて」

ぶつぶつと返答のない臓器と対話をする佐竹。

「由奈」

「あぁ素敵。

あなたたちの色艶を見るだけで私は幸せ」

その時、右手がふいに軽くなった。

「……ねぇ、由奈」

先程までよりわずかに遠くから聞こえた中山の声に、佐竹は違和感を感じて我に返る。

その時にはもう小屋の前には一台のパトカーが停車していた。

身体を反転させる為に右手を動かした時、中山の左手が抜けて空になっていることに気づくのだった。

「あなた……どうして?」

振り返ると中山は数歩先で落ち着いた様子で立っていた。

予期せぬ計画外に佐竹の表情が曇り、焦りが心を満たしていく。

「あら、そんな顔しないで由奈。

手錠から抜け出すなんてちょっと訓練すれば簡単よ」

中山はにこやかにそう言った。

そしてそんな中山の後ろ、玄関の曇りガラスの向こうで影が揺れるのを確認した。

「なんだ……チェックメイトなのね。

あなた警察の関係者かなにか?」

佐竹の表情から狂気が抜け落ちていくのが見ていて分かった。

逆に中山の表情は一貫して変わらないままであった。

「私を捕まえるのね」

その言葉を聞いて中山は笑う。

「ぶっぶー、全問不正解」

返答に困惑して佐竹の眉間にしわがよる。

そして悪魔が動き出す。



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