DECIMATION~選別の贄~
佐竹由奈の逃亡と中山二葉の失踪から二週間。
新聞は毎日のように同じ見出しが掲げられている。
「またしても内臓を抜かれた遺体」
「スーベニア的凶悪殺人」
「佐竹容疑者は未だ逮捕できず、全国に模倣犯とみられる事件が多発」
朝刊、夕刊と次々に売れていく。
内臓が抜かれた遺体が発見されたのは関東で8件、東北4件、中部6件、東海3件、近畿が最も多く10件にまでのぼった。
「佐竹容疑者はどうやら行方を眩ませながら各地で無差別な殺害を重ねている様ですね。
警察は彼女を重大な事件の容疑者として逮捕状も出している。全国各地で警戒に当たっているが未だ行方は分からない」
ニュース番組のコメンテーター達はまるでそんな台本が用意され、定型文を無機質に打ち込むかのように警察を罵倒した。
「今回も良い仕事だったわね由奈」
とあるホテルの一室で煙草を吹かす女性。
その横に今警察が血眼になって探している佐竹の姿もあった。
「段々とクマが濃くなってきたわね。大丈夫?」
佐竹由奈は確かに快楽殺人犯だ。
しかし今となっては自らの意思とは違う殺人も重ねている。
そのことが彼女に残っていたのか、または窮地のなかで取り戻したのか分からないが、唯一の人間性を傷つけていく。
クマが濃く広がり、痩せ細った身体は二週間前より体重が12キログラムも減ってしまっていた。
カサカサだった手は、もはや痛みしか感じないのではないかと思うくらいまでひび割れて、保湿クリームを塗ると激痛が走るようになっていた。
「次の仕事なんだけど……」
仕事とはつまり殺人である。
その二文字を耳にしただけで佐竹はびくっと身体を強ばらせた。
「……もう嫌。やめて」
聞こえない呟き。
ベロニカは佐竹の顔を撫でる。
「可哀想にこんなになって、でも大丈夫よ。
私が救ってあげる」
佐竹はこの笑顔が恐くて仕方がなかった。
寄り添うような柔らかい笑顔の中に異常なまでの威圧感が込められている。
救うと言う言葉ももはや脅迫以外の何物にも聞こえ得ない。
「あと二件。
あと二件仕事をこなしてくれたら私がボスに直訴して、あなたを国外でだけど自由の見にしてもらえるよう頼むわ」
終わりのない終わりに見えていた。
他人の人生を幾度閉ざしてもなお、自らの人生が他人の手によって閉ざされるというのは耐え難い苦痛であった。
逃げられないのであればいっそのこと自ら命を絶とうとも思ったが、24時間世話役と言う名の監視があり、それさえも叶わなかった。
絶望の中にその出口を見つけて、わずかに佐竹の顔が明るくなった。
「ね、だから頑張りましょう由奈ちゃん」
「本当に?本当に私を解放してくれるの?」
まともに声を発したのは久し振りだった。
ベロニカのあの笑顔すらも光に見えて佐竹は涙を流した。
そんな彼女を優しく包み込んでベロニカが囁く。
「本当よ。望まない形で手を汚させてしまってごめんなさい。
あなたがどんどん崩れていくのを見て、私も辛かった。だからあと二回。
二回だけ頑張って。私があなたを絶対に救ってみせる」
ベロニカの腕のなかで佐竹は震えながら涙を流した。
その時ベロニカがどんな表情でいたかもしらずに。