DECIMATION~選別の贄~
藁にもすがる思いで佐竹は32人目となる殺人に至った。
最早、あれだけ歓喜していた内臓にも心は一つも動かなくなり。
彼女に残ったのは警察に捕まれば死刑が確定の絶望と、あと一人殺すことで国外で自由の身になれるという不安定な希望だけであった。
「肺、心臓、大腸、小腸……
脾臓、すい臓……」
どこにでもある包丁で内臓を切り取っていく。
その作業はもはや流れ作業のように単調なものになってしまっていた。
手触り、匂い、はみ出した血管、果ては自分の呼吸音まで全てが不快で、佐竹は早く楽になりたかった。
「ご苦労様」
後ろで見ていたベロニカがそう言うと佐竹は何も言わずにベロニカの横を通って車に乗り込んだ。
運転手とも何も話さない。
ベロニカはすぐには車に戻らず、携帯を取り出した。
「ボスお疲れさまです。
はい残るターゲットは1人、用済みになったあの娘は手はず通りに始末致します」
ベロニカは無表情で通信を切る。
車に戻ったベロニカは佐竹の頭を撫でて小さく呟いた。
「ようやくあと1人よ」
その言葉が天使が囁いたのか悪魔が囁いたのか、そんなことすらもう佐竹はどうでも良くなっていた。
最後の最後に人間として彼女が望むのは自分の命を自らの意思で幕を閉じたい。それだけだったのだから。
そして佐竹由奈の最後の夜がくる。