DECIMATION~選別の贄~
東谷の部屋の外では、壁際に置かれたベンチで叔母が待っていた。

出てきた菜月を無表情で見つめてただ一言だけ「行くよ」と言って歩き出した。

菜月はその背中をぼうっと眺めながら付いていく。

菜月が退院してから、付き添いは叔母がするようになっていた。

想次郎は入社して早々と新しい部署に移り、忙しい日々を送っている。

あれだけマメだった連絡も途絶えている状態であったが、菜月は他人の心配をしていられる状態にはない。

叔母も元々から心配などしなかったであろうが、毛嫌いする電力会社にすすんで入社した想次郎をよく思っているわけもなく、音信不通になるのであればそれで構わないと真顔でこぼすのを菜月は一度見てしまっていた。

病院独特の消毒液の匂いが鼻をつく。

けれども菜月はそれを不快とは思わなかった。

今にも停止してしまいそうな思考をどうにか現実にとどめてくれる刺激に思えていたからなのかもしれない。

病院の前の大通りには人が沢山いた。

菜月は叔母の背中に隠れて、振り向きもしないその人物の洋服の端を手で握りしめている。

そんな菜月に一声もかけることはないが、家に着くまでの間に叔母が文句を言ったり、洋服の端を握ることをうっとおしがることは一度もなかったのであった。

「ただいま」の無い家。

帰るとすぐに菜月は自分の部屋に向かった。

着替えもせずに薄紫のシーツの布団に寝転がった。

うつ伏せで自然と横を向いた視線のその先では減らずに積もったままの一樹のチラシが薄い埃の幕を張っていた。









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