DECIMATION~選別の贄~
トラックを走らせること20分。
信号もない道のりをひたすら走ってようやく朝田家に到着する。
乃恵瑠はトラックが停止すると一目散に飛び降りて、持参した救急セットや医療器機の入った茶色のバッグを手にした。
昭和を思わせる木の家。
靴を脱いで床を歩くと、ミシミシっと木の軋む音が響く。
その廊下を真っ直ぐ突き当たった左手に、可愛らしい手作りの表札で「みおりの部屋」と書かれていた。
「美織ちゃんこんにちは」
乃恵瑠はノックをしてから部屋に入る。
小学生らしいキャラクターもののぬいぐるみが沢山の部屋の窓際のベッドで美織は眠っていた。
「……んん、あ!ノエル先生」
眠気眼で乃恵瑠の顔を見つけてパッと表情が明るくなる。
乃恵瑠はにっこりと笑いかけた。
そしてゆっくりとベッドの側に片膝をついて座る。
「急に胸が痛くなったんだって?まだ痛むかい?」
美織はまるで自分の胸に問いかけるかのように目線を下げて、そして首を横に振った。
「今はそんなに痛くない、かな?
ノエル先生ごめんなさい。せっかく来てもらったのに」
島民はたったの二年間しか一緒に居ないが、島民一人一人にとってどれだけ乃恵瑠が必要かを知っている。
それは小学生でも、老人でもである。
それだけに、訪問診療に費やす時間がどれだけ貴重なものかを美織も分かってしまっていたのだろう。
乃恵瑠は優しく首を振った。
「謝らなくていいんだよ。患者さんが呼ぶのなら僕はいつでも飛んでくるし、また胸が痛んだりしたら呼んで欲しい。
こうして患者さんに心配されたりしてしまうのは僕の腕が足りないからだね。もっともっと皆のことを診てあげれたら良いんだけど……身体が二つ、いや4つくらいあれば良いのになぁ」
頼れる医者で、学童を除けば一番歳の近い大人である、目の前の男性が真面目にそんなことを言うものだから美織は思わず笑ってしまう。
「先生、身体4つは無理だよー」
「えー、やっぱ無理かなぁ、そうだよなぁ」
それから少しだけ談笑をしてから、診察を行って乃恵瑠は患者の待つ診療所へと帰っていった。
帰り際に胸ポケットからラムネを取り出して「胸の痛みがなくなる魔法の薬」と称して美織に渡した。
これにはさすがの小学生も信じるはずもなく「美味しく頂くね」と返されて乃恵瑠は苦笑したのだった。