DECIMATION~選別の贄~
捜査の進展は急なものであった。
三番目の被害者から検出された体液と一致するDNAを持つ男が別の容疑で取り調べを受けていたのだった。
「容疑者が見つかったっていうのは本当なんですか?」
「あぁ、だが殺人については否認している」
連絡を受けた安岡と波田も原材容疑者の取り調べを行っている県警へと向かっていた。
別の捜査で出ていた二人は途中で合流しタクシーを使って県警へと向かっていく。
重要参考人となりうる容疑者が見つかったと言うのに波田の表情は晴れない。
「殺人については、ということはなになについて認めているのですか?」
波田は安岡にとある資料を手渡す。
そこには第三の犠牲者となった女子高校生の身辺調査の結果が連なっていた。
「……そうか。援助交際の相手」
「ああ、淫行条例違反については認めているらしい。しかし、純粋な好意であり、その中で行為に及びお小遣いという名目で金銭の授受も認めている」
タクシーが止まると車内は沈黙に満たされる。
「つまり、そうした行為が公にされそうになったから殺した。何かしらの意思の行き違いが生まれて殺した。ということではないのですか?」
「いや、児童売春についてはあっさりと認めたし、そういうことと分かっていながら彼女を愛してしまったと言っている。
それ故に、自分が彼女を殺すことなどあり得ないと断固として言っているのだそうだ」
車がわずかに揺れてまた動き出す。
「なんか気持ち悪いですね……」
「ん?売春がか?」
波田はぼーっと流れていく白線を見ながらそう言った。
安岡はわずかに言葉を考えて答えた。
「いや、そういうのは確かに理解できないのですが。
なんというのか、んー、でもあれなんだよなぁ」
波田は安岡がことばにできないほどに些細でそれでいて核心に迫る疑問に当たっている可能性があることを察した。
「何が気になるんだ?」
安岡ははっと波田を見つめた。
そこには真っ直ぐに自分をみる目があった。
安岡は小さい声で言う。
「その、もしもこの事件の犯人が波田警部の推察通り一人だとしたら、複数の体液を入手しなければなりませんよね?
世界では精子バンクだなんてものもありますが日本ではまだまだ認知すらできていない現状にどうするんだろうって思ったんですけど……」
「ほお、どうすると思う?」
安岡は自信なさげに言う。
「援助交際で相手のことを思っていたという被疑者が嘘をついていないとしたら、行為の際に避妊具を使ったはずですよね。
それを持ち帰るったことはまずないと思うんです。ということは……」
そこで波田も気づいた。
「ラブホテルか!」
「はい……」
波田は真剣に考えを巡らせていく。
可能性は0ではない。しかし限りなく0に近い可能性であった。
ただ現状の捜査の中で単一犯である可能性はまさしく0であった中に、限りなく0に近い可能性が生まれたことが大きかった。
「なにはともあれ容疑者の話を聞いてみないことには何もできねぇ」
「はい、そうですね……」
それから10分ほど後、二人を乗せたタクシーが県警へと到着するのだった。