DECIMATION~選別の贄~
それから二人は陽が暮れるまでチラシを配り続けた。
二人がかりで一時間半配って、手に取ってもらえたのはたったの18枚。
菜月が今日の為に用意したチラシは50枚。
今は手元に21枚が残っていた。
想次郎が来るまでに菜月が単独で配った数を合わせると29人が目を通してくれたことになるが、帰り道に地面に捨てられたチラシを菜月だけでも5枚見つけた。
慣れっこにはなっていたが、やっぱり胸がはり裂けるくらい悲しかった。
二人が帰り支度を済ませ家路に付こうとした時、急に想次郎が立ち止まる。
「あ、ごめん。僕今から用事あるんだ、菜月は先に帰ってて」
「え?想兄、今から?」
「寄り道しないで気を付けて帰るんだよ、じゃあ」
想次郎は広角をきゅっと上げた笑顔で手を振った。
「……想兄?」
その表情が想次郎が何か嘘をついていたり、隠し事をしているときの表情だと菜月は知っていた。
想次郎は帰宅ラッシュから比べて若干少なくなった人の間を抜けて走っていく。
菜月は少し不安にかられながらも人混みに消えていく想次郎を見送った。
そして姿が見えなくなると自分は家路に着くのだった。
「ふぅ」
菜月は手に持っていた21枚のチラシを丁寧にスクールバックにしまう。
がさつに入れられた学校のプリントを押しのけて、きちんとクリアファイルに収められたチラシが入れられる。
菜月は一人きりの家は好きではなかった。
菜月は利子との関係を好ましく思っていなかったし、想次郎が居ないのであればあの家は菜月にとっての家族とは言えない程度の物だった。
そんなことを考えていると頭の中がもやもやした。
甘党の菜月にとって帰り道最大の誘惑はコンビニであった。
ストレスが溜まったり疲れていたりすると甘いものが欲しくなるからつい寄り道をしたくなる。
「コンビニ寄ろうかな……」
あの扉の先には好きな菓子やスイーツがある。
チラシ配りで体力的にも精神的にも疲れてしまった菜月にとってコンビニスイーツの誘惑は避けようのないものだっただろう。
しかしそんな時に先程の想次郎の言葉が蘇る。
「寄り道はしないように想兄もいってたし、心配させたくないからやーめた」
今日日の高校生が兄の言葉で寄り道を自制できるのはいかがなものかとも思うが、菜月は素直に利子の居る一人きりの家に戻っていった。
「…………あそこがそうか」
玄関に入る菜月を遠くの電信柱の影から見つめる1人の男。
男は身を隠していた電信柱の中腹を真剣に見つめて何かをメモする。
そして再び菜月が入っていった家に熱い視線を投げつけて、薄暗い路地に消えていった。