DECIMATION~選別の贄~
とある倉庫街の片隅で、暗闇に隠れ電話をする人影があった。
「……やっぱり、あんたなわけね」
「そう言うなよ。かなりキツめのスケジュールになってしまったがご苦労だったな。もう『E』をばらまく必要はないとのことだ。
引き上げてこいカスミ」
豊満なバストが顕にならんばかりの胸元が空いたドレス、その上にレースのカーディガンを羽織っていた。
カスミはタバコに火をつける。
白い煙は明かりのない倉庫街の闇の中へと悠然と消えていく。
「ねぇ、ジーク」
「なんだ?」
「私たちの見据える先に……いえ、ボスの見据える先の未来で私たちは笑えているのかな?」
洗い落としても落ちない、鮮血に染り続ける手を見つめてカスミは小さくそういった。
ジークはなるべく声色が変わらないように注意しながら、低い声で言う。
「それはボスにしか分からない。いや、もしかしたらボスだって分からないのかもしれない、だけどこれはオレにしかできない仕事だ。
このヤマが本当の意味で終わりを告げる日が来たのなら、オレ達はここで話したことも思い返し、やってきたことの偉大さを誇る日は来るんじゃないかな?」
「そうね」そう言ったカスミは電話を切った。
ふかしたタバコの煙が星空に吸い込まれていくのをしばらくじっと見ていた。
「ジークは優しい……私たちの未来に笑う日など来ない。でもそれを、決して口にしたりしない」
カスミは携帯灰皿にタバコを捨てて、静寂に包まれている闇の中へと消えていった。
連続強姦致死事件は北川の犯行である4件と、全国各地での模倣犯の事件とを合わせて10人の犠牲者を産んだ。
6件の事件の被害者の所持品、主に携帯電話の画面には全て『E』の1文字が打たれていたのだった。