満月の人魚
「俺はコイツに聞いてるの。あんた、名前は?」

腕に抱きつく女生徒を軽い口調で窘めながら、もう一度名前を聞いてくる。

先程聞かれた時は答える気はなかったが、女生徒の登場によりどうせもう知られている。

「天野……天野瑠璃。」

眉間に皺が寄っているのが自分でも分かる。

「天野って、あの製薬会社のAMANOか?」

瑠璃はコクリと頷いた。

何か考え込む素振りを見せる黒沢の腕を、女生徒が引っ張って席に連れて行こうとしている。

始業間近な教室は登校してきた生徒の声でごった返していた。

ちらほらと他のクラスの先生の声も聞こえ始め、生徒の動きも忙しくなる。

「ちょ…あんま引っ張んなって。
じゃあな、瑠璃。あんた、もっと笑った方がいいよ。」
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