満月の人魚
「丈瑠って呼んで。」

俺も瑠璃って呼ぶから、と続ける黒沢は、どこか寂しそうに笑っている。

その表情があまりに弱々しく儚げで、しかし瞳だけは譲らない強さを秘めている。

昨日見つめ合った、意思の強い瞳。

瑠璃は思わず呟いていた。

「……丈瑠…君。」

呼ぶと、丈瑠は嬉しそうにはにかんだ笑顔を浮かべた。

「…良かった…。もう二度と呼んでもらえないかと思ってた。」

「え?」


「…何でもない。それよりもう少し休めよ。先生には意識取り戻したって伝えておく。」

じゃあな、と言って、丈瑠は保健室から出て行ってしまう。
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