満月の人魚

不安

「瑠璃、何か楽しそうだね。」

夕食の席で、零士に指摘されるまで瑠璃は自分が笑みを浮かべている事に気付かなかった。

「学校で何か良い事でもあったの?」

良い事…ではない気がする。肉親を他人呼ばわりされたり、ボールにぶつかりそうになったり、かえってよくない事だらけだ。

しかし黒沢と笑いあった時間が、瑠璃の心を穏やかにしていた。

「ねぇ兄さん、変な事を聞くけれど……私と兄さんは従兄妹同士よね?」

「?なんだい?突然。僕と瑠璃は従兄妹同士で、この家で一緒に暮らしてもう7年になるじゃないか。」

7年…

瑠璃は不意に今朝見た母の夢を思い出した。

「ねぇ、私の両親が亡くなったのって、私がもっと小さい頃だった筈だわ。私、両親を亡くしてからこの家に来るまで、どうしてたのかしら?」

そう…7年よりもっと前だった筈…。

「っ……さぁ、どうだったかな。僕も、瑠璃がこの家に来る前の事は詳しく知らないんだ。」

どこか歯切れの悪い零士を見て、瑠璃の中で黒沢の言葉が蘇る。

“瑠璃に従兄妹はいない”

そんな筈はない。自分は零士の従兄妹で、この家に来て7年経つのだから。

瑠璃は胸の中に釈然としない何かが広がっていくのを感じていた。


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