満月の人魚
丈瑠はそうか、と軽く頷いた後、目線で近くのベンチに座るよう促してくる。

公園内は家族連れやカップルが数組いるだけで、二人を気に留める者はいない。

翼を広げて青空の中を鳥がピィと鳴きながら飛んでいく。

何から話そうか、と顎に手を当てて少し考え込んだ後、丈瑠はおもむろに口を開いた。

「俺はN県の田舎で生まれ育った。周りを森に囲まれた、静かな村だ。辺鄙な場所ではあるが、じいちゃんと両親に何不自由なく育てて貰ったと思っている。
7年前、そこに突然黒服の男達が現れて、村が守っているあるものが奪われた。7年かけてやっとこの土地にあるって分かったんだ。だから取り返す為にここにやってきた。」

丈瑠はそこまで話して、ゆっくりと瑠璃の顔を見ながら続けた。

「お前だよ、瑠璃。7年前に奪われた…俺達の人魚。」
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