満月の人魚
丈瑠は難しい顔をして何やら考え込んでいる。

瑠璃は手元に視線を落とした。そこには写真が握られている。写真の中の自分と今の無表情に近い自分の違いに笑ってしまいそうになった。

(昔の私は、こんな顔で笑っていたのね。)

父や零士と一緒にいても、心から笑うなんて事はない。瑠璃の心はいつも寂しさを抱えていた。それは天野が本来の自分の居場所ではなかったからなのだろう。

「瑠璃」

声の方を向けば、丈瑠が真剣な顔でこちらを見ている。

「とりあえずは今の生活を続けよう。こちらが変に動いて、天野が強硬な手段に出てきても困る。」


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