満月の人魚
瑠璃の考えを見透かしたように、丈瑠は穏やかに微笑んで瑠璃を安心させるようにゆっくり話しかけてくる。

「瑠璃は今まで通り過ごせばいい。天野も瑠璃に危害は加えない筈だ。」

だから安心しろ、と言って、写真を持っていない方の手を握ってくる。

その手はとても大きく、暖かく、何処か懐かしかった。

丈瑠が大丈夫と言うなら、大丈夫なんだろう。

不思議とそんなふうに思えて、瑠璃は全身の強張りが解けていくのを感じていた。

瑠璃は知らず丈瑠の手を強く握り返していた。

丈瑠がそばにいて微笑んでいる、そのことだけで安心出来るのは、なぜなんだろうか。

昔からの知り合いだから、それだけではない何かを瑠璃は感じていた。

手を握り合い互いを見つめながら、穏やかな時間が流れていった。


そんな二人の様子を、零士がひっそりと見ていたことを知るのは、もう少し先の話だった。
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