満月の人魚

婚約

丈瑠の話は、瑠璃に混乱をもたらしはしたが、どことなく感じていた違和感に答えが見つかったような、何処かすっきりとした心地にさせてくれた。

丈瑠の話全てを心から信じた訳ではないが、瑠璃にとって納得出来るものだったのだ。

瑠璃は天野の家でも普段通りを装いながら生活する事を心がけていた。

仕事で忙しい父と顔を合わせる機会は元々少ない事も助けになり、自然に振る舞えていると思う。

何処か緊張しながら家で過ごす瑠璃を支えているのは、丈瑠の存在だった。

あれから丈瑠は、昼休みなどに二人きりの時間を作っては昔の話を聞かせてくれるようになった。

丈瑠の初めての言葉が「りぃ」だった事や、一緒に森で鬼ごっこをして遊んだ事、時には帰りが遅くなり二人一緒に叱られた事など、どれも他愛のない話だが、瑠璃の心は無くした何かが舞い戻ってきたように暖かくなるものばかりだった。
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