満月の人魚
書斎に着くと、帰宅したばかりなのか父がスーツ姿のまま瑠璃の事を待っていた。

「こんな時間にすまないな。」

父がネクタイを外しながら瑠璃に座るよう促してくる。

零士がドアを閉める音を聞きながら、瑠璃は浅めにソファに腰掛けた。

向かいに座る父は少し疲労を滲ませた顔に、それでも瞳にはいつもの威圧感を漂わせている。

「こないだの婚約の件だが、瑠璃の今の気持ちを確認しておきたくてな。零士は異存ないそうだが、お前はどうだ、瑠璃。」

瑠璃の心の中で様々な思いが渦巻いた。

こないだは何も反論出来なかった。

しかし父と話すのもこれが最後という思いが、最後くらい本心でこの父に接してみたいという思いを瑠璃に抱かせる。

「私は…兄さんとは結婚出来ません。」

瑠璃は毅然とした態度で父に告げた。
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