満月の人魚
「それはなぜだ。」
「それは……」
「他に好きな男でもいるのか?」
瑠璃は思わず顔を上げて父の顔を見てしまう。
父は相変わらず無表情で瑠璃の事を見ている。
しばし沈黙が流れたが、先に口を開いたのは父の方だった。
「そうか、今まで従順だったお前にも、好きな男がいるのか。」
父は、瑠璃の沈黙を肯定と取ったようだ。
父は眼鏡を外して眉間を揉んだかと思うと、一つ息をついて静かに語りだした。
「一つ、昔話をしよう。昔、あるところに仲睦まじい夫婦がいた。夫は妻を心から愛し、妻も夫を愛していた。子宝にも恵まれ二人は幸せに暮らしていた。しかしその幸せは長くは続かなかった。妻が病魔に侵されたのだ。夫は必死になって妻の病気を治そうとした。ありとあらゆる薬を試した。迷信や伝承の類まで漁って妻を生かす方法を探した。しかし妻は死んだ。そのすぐ後だった、夫が人魚の生き血の話を聞いたのは。」
「それは……」
「他に好きな男でもいるのか?」
瑠璃は思わず顔を上げて父の顔を見てしまう。
父は相変わらず無表情で瑠璃の事を見ている。
しばし沈黙が流れたが、先に口を開いたのは父の方だった。
「そうか、今まで従順だったお前にも、好きな男がいるのか。」
父は、瑠璃の沈黙を肯定と取ったようだ。
父は眼鏡を外して眉間を揉んだかと思うと、一つ息をついて静かに語りだした。
「一つ、昔話をしよう。昔、あるところに仲睦まじい夫婦がいた。夫は妻を心から愛し、妻も夫を愛していた。子宝にも恵まれ二人は幸せに暮らしていた。しかしその幸せは長くは続かなかった。妻が病魔に侵されたのだ。夫は必死になって妻の病気を治そうとした。ありとあらゆる薬を試した。迷信や伝承の類まで漁って妻を生かす方法を探した。しかし妻は死んだ。そのすぐ後だった、夫が人魚の生き血の話を聞いたのは。」