満月の人魚
父の目が剣呑に光る。

気づけば瑠璃の隣に座り、瑠璃の目を真っ直ぐ見据えてくる。

瑠璃には父が何の話をするつもりなのか、察しがついた。

父は今ここで瑠璃が人魚である事もさらってきた事も瑠璃に話した上で、瑠璃を逃がす気はないのだ。

嫌な汗が流れていくのを感じる。

緊張のせいなのか、最近は収まっていた筈の頭痛までする。

瑠璃は意を決して口を開いた。

「私をさらったのは……人魚の生き血が欲しかったから?」

父は一瞬目を瞠ったかと思うと、次の瞬間には軽く口元に笑いを浮かべて瑠璃の事を面白いものをみるかのような目で見てきた。

「なんだ、知っていたのか。そうだ、私は決めた。亡くした妻の代わりにAMANOは何が何でも守っていくと。お前の血液は我がAMANOに大きな進歩をもたらした。大いに役に立ってくれたよ。…だがまだ足りない。人間は儚い生き物だ。」

そこまで話すと、父ががしっと瑠璃の腕をつかんできた。

その力は異様に強く、瑠璃の体が恐怖にこわばる。

父の顔が窓から差し込む月明かりに照らされる。

その目は血走ったように異様に見開かれ、口元は弧を描いている。
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