満月の人魚
「知っているか?人魚に伝わる伝承を。人魚は満月の晩に契りを交わした人間に不老不死を与えるそうだな。」

瑠璃の中で警鐘が鳴り響く。

父の、瑠璃を掴む腕に更に力が加えられ、痛みに顔を歪めた。

「その話を聞いた時は半信半疑だったが……私もこの七年で考えを改めたよ。零士が嫌なら私がもらってやろう。その体、寄越せ‼」

言うなり瑠璃をソファに押し倒してきた。

「やめて‼」

瑠璃は恐怖でこわばる体に喝を入れ、目一杯抵抗する。

しかし父の力はすさまじく、瑠璃の来ているブラウスのボタンを外そうと力を込めてくる。

瑠璃は必死になって父の手をブラウスからはがそうと、引っ張ったり引っ掻いたりしてみるが、まるで歯が立たない。

喉が異様に渇き、頭痛がひどくなってくる。

その時だ。

扉が開く音とともに、瑠璃をいつも助けてくれる者の声が聞こえた。
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