満月の人魚

満月

天野邸を後にした二人は、海沿いの道を歩いていた。

荷物は丈瑠が背負ってきたリュック一つ。

真夜中に走っている車もおらず、聞こえるのは丈瑠の荒い息遣いのみだ。

丈瑠は背中の他にも、零士と揉み合った際に出来た小さな傷を体のあちこちに負っていた。

しかしやはり背中の傷が痛むのか、その表情は苦悶に満ちている。

「丈瑠……ごめんなさい。私のせいだわ。」

瑠璃は涙を流しながら、丈瑠に肩を貸しながら歩く。

「瑠璃のせいじゃない。それに、頼むから泣くなって。今泣かれても涙一つ拭ってやれないだろ。」

瑠璃が気に病まないですむよう、丈瑠はわざと明るい声で軽口を叩く。

「……何かして欲しい事や買ってきて欲しい物はない?」

丈瑠の苦痛が和らぐなら、何でもする。

「……そうだな。…少し、休みたいんだ。もう少し海の近くまで行かないか?」

丈瑠は海を見ながらそう告げる。

瑠璃はわかったと頷いて、二人は砂浜へと降りて行った。
< 93 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop