ロリポップ
 ワンピースもブラもやっと乾いたのはお昼を少し過ぎた頃。
 ワンピースもブラも、恩田君はちゃんと手洗いしてくれたらしい・・・ほんと、迷惑かけ過ぎ・・・。
 綺麗になったワンピースを着て、(ちゃんとブラもして)私は帰ることにした。
 さすがに私がここにいたら、恩田君もせっかくの休日を心置きなく休めないだろうし。
 

「本当に、散々迷惑かけっぱなしで・・・ゴメンね。このお礼はまた、今度するから。ほんと、ゴメンね、ありがとう」


「いえ、気にしないで下さい。・・・お礼ついでにお願いしてもいいですか?」


 玄関でブーツを履いた私より少し上にある顔が、躊躇いがちに問いかける。


「何?」


「あの・・・携帯の番号、教えてください」


 思い切って聞きました!って感じで、彼のおっとりしたいつもの口調よりも少し早口なその言葉に、思わず笑ってしまう。


「あはは、番号聞くのにそんなに力いれなくても」


 笑う私に、緊張したんですよ~といつものおっとり口調が帰ってくる。
 お互いのスマホを赤外線でピッとしたら、情報交換終わり。
 電話帳に恩田君の名前があるのがちょっと不思議な感じ。


「本当に逢沢さんの番号だ~」


 と画面を見つめながら嬉しそうに笑う恩田君に、他の人に教えないでよ!!と釘をさして、彼のマンションを後にした。
 下まで送るという彼の申し出を丁重に断って、私はエレベーターに乗り込んだ。



「また、明日、会社でね」


 そう言って手を振る私に、恩田君は、はい、とにっこり微笑んで。
 静かにドアが閉まって下がり始めるエレベーターの中で、私は小さく溜息をつく。
 文哉は一度だって、私を見送ってくれる事なんてなかったなって。
 思い出したくないのに、別れを受け入れたのに、思い出が色んなところに転がっていてふとしたときに顔を出して、気づきたくないことを確認させる。
 頭と心は別なんだなって、思う。
 求めてるわけじゃないのに、思い出す。
 胸に残されたキスマークみたいに、いつかは消えてしまえばいのに。




< 15 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop