ロリポップ
 何がどうしてこうなった訳・・・?


 お世辞にも広いとは言えない、大学時代から住んでいるワンルームマンションの部屋に帰りついた私はしばらく動けないでいた。
 11月の暖房のきいていない室内はひんやりを通り越えて、ゾクッとするほどに冷えている。座り込んだフローリングから伝わる冷気に、タイツを履いている足は感覚がなくなりそうなほどに冷えはじめていた。


「・・・寒いな」

 
 独り言を呟いて立ち上がる。ファンヒーターをつけて、お風呂場に向かう。
 バスタブにお湯をためるために蛇口を上に上げると、勢いよく湯気を上げながらお湯がたまり始める。
 その横で、ノロノロと着ていた物を脱ぎ始める。
 お気に入りのワンピース・・・お気に入りの下着・・・誕生日プレゼントのピアス・・・文哉の事を考えながら選んだものを一つずつ外しては、何も身につけない私になる。
 そこにある鏡に映るのは裸の私。
 それなのに、右の胸に未だに色鮮やかに残る文哉の印を見つけてしまう。
 

「・・・何だったのよ・・・ッ」

 
 こんなモノを残すくらいなら別れるなんて言わないで欲しかった。
 別れてもなお、存在を残すような赤い印。
 自分勝手に私の肌に自分の印を残しながら、私に別れを告げた男。

 湯気に曇る鏡には何も映らなくなる。
 
 でも、何も映らないのは、私の瞳が涙を堪え切れなかったからだったかもしれない。
 ザアザアとバスタブに流れるお湯の音に混ざり合うように私の嗚咽が響く。聞きたくもない自分の惨めな今を、お風呂の中で反響する嗚咽でいやと言うほど思い知る。
 
 文哉の前で泣かなかったのは自分の小さなプライドの為でも何でもない。
 泣いてしまったら文哉に、4回目の言葉を言われるのが怖かったから。
 あれ以上、何も言われたくない。
 その思いが私の崩壊しそうな涙腺を何とか守り抜いた。
 でも、もう私の涙腺は限界だった。

 バスタブに膝を抱えるように丸くなってワンワン泣いた。
 子供みたいに。
 ひっくひっくって息も吸えなくなるくらい泣いて、ベットに潜り込んで浸すら眠った。
 
 月曜日からは前を向こう。
 沢山眠って、心も眠って、そして・・・・・。

 文哉のいない時間を過ごそう・・・・。



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