ロリポップ
「だから、目が腫れぼったい訳だ?」


 同期で入社以来の友人、戸田 友華(とだ ゆか)は社員食堂でぐったりとしている私の横で、食後のコーヒーを口にしながらチラリと見下ろす。
 メールで文哉と別れた事を告げると、『社員食堂で待つ』と果たし状かってメールが返信されて来た。
 ご飯なんか食べる気になれないんだけど、友華の誘いを断ると後が怖い。
 腰まで伸びた黒髪に、170センチの長身のモデル体系で端正な顔立ちの友華は秘書課勤務。
美人を怒らせると迫力が桁違いだ。今までの経験でそれをしみじみ感じる。
だから、果たし状でも何でもうけいれねば。
 友華は入社当時からその容姿で何かと目立っていた。
数ある告白をあっさりと断り、自分から告白して彼氏を作った人。
 彼氏と言われ紹介されたとき、「・・・え?」と聞き返し、二度見してしまった。
 見た目の冴えない同期を彼氏と紹介されたあの驚きは、私の人生の『驚いたで賞』の1位だった。
 つい、先日までは・・・・・。

 
「そりゃあ・・・泣くわよ。二年も付き合ってたんだし・・・」


「ふ~ん・・・」


 ふ~ん・・・って。まあ、友華には他人事だけどさ、もう少し心配とかしてくれてもよくない?果たし状送ってきて言う事はそれだけって・・・。


「別にいいじゃない。男はあいつだけじゃないんだし。あの人、下半身で生きてるって感じだったんだよね」


「ごほっ!!ちょっ・・・!友華!!」


 口にしたカフェオレを豪快に噴出してしまった。
 社員食堂で何を言い出すのよ、この人!?
 何人の社員がここを利用してると思ってるのよ!

 
「ああ、ごめんごめん。つい」


 全然、ゴメンなんて思ってない口ぶりで平然とコーヒーを飲む友華を横目で見ながら、台の上を布巾で拭く。


「なんかさ、音羽の事が好きっていう感じじゃなくてさ・・・」


「感じじゃなくて?」


 私の顔を見ながら、少しためらったようにゆっくりと口を開く。

「体が好きっだった感じ?」


 ・・・・・爆弾投下しちゃったよ、この人・・・。
 一斉に私たちのテーブルに視線が向けられて、居心地の悪い事このうえない・・・。
 社員食堂でこの話をした私が間違っていたわ・・・。

 友華の手を引っ張って急いで食堂を後にした。
 
 やっぱりあれは果たし状だったんだわ・・・・・。

 
 
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