ロリポップ
甘くて苦い関係
 あの、恩田君が高熱を出した日。  

 帰られなくなった私はしばらくリビングに何故だか正座して、静かに座っていた。 
 恩田君が起きてきたらどうしよう、と考えていたけど、起きてくる気配の無い寝室の様子に帰る事にした。
 熱も下がったようだったし、今日と明日、ゆっくり休めばよくなるだろう。

 冷蔵庫にプリンやゼリーがあることを書置きして、恩田君の部屋を後にした。







 部屋に帰り着いたのは時計が10時を少し回った頃。
 さすがに寝不足でまぶたが重い。
 バスタブにお湯を張り、素早く入ると今から外に出かけようかという人と反対に、布団の中に潜り込む。
 恩田君の顔がちらついたけど、それよりも眠すぎてふらふらしていた。
 今なら子守唄もいらないなぁ・・・。
 すぐに睡魔が襲ってきて、引きずり込まれるように眠りについた私だった。



 目が覚めたときにはどっぷりと日が沈み、部屋の中はほぼ真っ暗。

 肩にカーディガンを引っ掛けて、ノロノロと電気をつける。

 時計は6時半を指していた。
 
 んん~っと思い切り両手を伸ばした拍子に、椅子に掛けてあったバッグに手が当たって床に落ちた。
 スマホがするすると鞄から滑り出してきて、着信のランプが点滅している事に気がつく。
 恩田君の部屋に言った時、マナーモードにしてあったのを忘れてた。

 点滅するスマホのロックを解除すると、画面に表示されるのは着信8件の文字。


 そのうち一件は友華で、7件は恩田君だった。

 ん?7件!?
 何かあったの?

 心配になって発信を押そうとしてその指が止まる。

 今更だけど。
 
 自分からキスしておいてなんだけど。

 恩田君は知らないけど・・・・・。

 むちゃくちゃ恥ずかしいんですけど~!!!

 思い出して一人赤面する私を、誰かに見られていたらきっと気持ち悪がられるに違いない。

 にやけて赤くなって、悶絶する私・・・我ながら想像しても気持ち悪い。
 
 キスの事を恩田君は知る由も無いのに、勝手に盛り上がる心臓はドキドキどころかバクバクで、ただ電話をするだけなの何をこんなに緊張してるのよ・・・と情け無くって嫌になる。
 
 一人、赤くなったり落ち込んだりしている私の手の中のスマホが、着信を知らせる。
 バックライトで明るくなった色気の無い初期設定の画面には、【恩田君 着信】の文字。


 べ、別に緊張しなくていいのよ。 
 今までと同じで。
 と自分に言い聞かせて、電話をとる。


「もしもし」


 そう言った自分の声は、小さくて掠れていた。


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