ロリポップ
果たし状の場所はいつもの、とあったように入社以来何かと言えばここの居酒屋で同期の4人で飲んでいた。
上司の愚痴から始まり個人的な相談まで、ここでは色んな事を話して来た場所。きっと私の話を肴に同期の4人で飲もうって言う事なんだろうけど・・・。明日は祭日で会社は休み。友華が気を使ってくれたんだろう。
友華の召集命令に逆らえない同期3人・・・。まあ、一人は友華の彼氏なんだけど。
店の前に着いたのは集合時間の15分前だった。
定時で終わったのはどうやら私だけのよう。
友華からはメールで少し遅くなるけれど、6時には行けると思うとあった。
他の二人は営業先から来るとの事。時間的には6時を回ってしまうから二人で先に飲んでいてくれと、友華を介して連絡があった。
皆、忙しいんだなあ・・・って当たり前か。年末が近くなるといつも忙しさは増してくる。そして、飲む回数も必然的に増えてきて二日酔いっぽい人もいたりして・・・。今にも吐きそうな顔色で仕事してるの見たら、気の毒に・・・と同情してしまう。接待やらなんやらで飲む機会の多い営業は、肝臓も強くないと勤まらないわね、なんて毎年その光景を見る度に思う私は事務職で良かったと胸を撫で下ろす。人事の人が間違えても営業に!なんて人材でなかったことに感謝する。私にはきっと営業は勤まらない。肝臓も強くないけれど、見た目のハッキリスッキリサッパリ!みたいな感じと違って、こう見えてもガラスのハートの持ち主。・・・自分で言うなよって感じだけど。繊細って感じじゃない。残念ながら。ただ単に、勇気と思い切りがないってだけ。どこかのキャラクターに分けてもらいたい。私に足りない勇気と思い切り。
店の中で待とうかとも思ったけれど、友華を待つ事にした。
一人で中で待っていても気まずい。
寒い乾いた風が時折吹いて、私の髪の毛をふわりと揺らしては通り過ぎる。
マフラーの隙間から入り込む冷気は冬の到来を告げているらしい。
私の心も真冬到来・・・だな。
友華を待つその時間の風の寒さに胸がチクリと痛んだ。
「ごめん!遅くなった!!」
カツカツとヒールの音を響かせて、友華は長い黒髪をなびかせて走ってきた。
別に走って来なくても大丈夫なのに。
はあはあと白い息を吐きながら、私の元に来る友華を見ながらぼんやりと見ていた。
「走んなくても大丈・・・夫・・・」
「思ってたより時間かかって。・・・って、音羽?」
動きの止まった私を怪訝そうに見ながら近づいてくる友華・・・・・の道路を挟んだ向こう側。見覚えのあるコートの人・・・・・。
「文哉・・・・・」
「えっ?」
友華が驚いたように私の視線の先に目をやると、やっぱりそこには文哉がいた。いつも来ていた黒のコートに、いつも持っていた仕事用のバッグ、そしていつも見ていた少し気の強そうな顔・・・・・。何もかもがいつも通りの文哉が反対側の歩道を歩いて行く。違うのはもう、恋人ではなくなったという事だけ・・・・・。
「仕事かな・・・」
私の呟きに友華の溜息が落ちた。分かってる。十分、分かってるよ。もう、別れた人だって。頭ではちゃんと分かってる。でも、ちょっと、胸が痛むのは仕方ないじゃない?別れたからって、はい、終わり!!って気持ちのスイッチは簡単には切れない。
「そんな切なそうな顔しないの!あいつよりもいい男捕まえるぞ!!くらいの勢いを持ちなさいよ」
「捕まえるぞって。私、ハンターじゃないし・・・」
「ハンターになれって言ってんのよ。今日は飲むわよ!覚悟しなさいよ!」
「え~」
「音羽に拒否権ないから」
ぶーと頬を膨らませる私の腕をぐいぐいと引っ張って、居酒屋の戸を開ける。
私の視線の先は文哉を追いかける。
段々と人ごみに紛れて行く姿を探すように・・・・。
けれど、探したりしなければ良かったと思った。
知らなければいい事をどうして私は知りたがってしまうんだろう。
見なければいいものを追いかけてまで探して・・・・・。
上司の愚痴から始まり個人的な相談まで、ここでは色んな事を話して来た場所。きっと私の話を肴に同期の4人で飲もうって言う事なんだろうけど・・・。明日は祭日で会社は休み。友華が気を使ってくれたんだろう。
友華の召集命令に逆らえない同期3人・・・。まあ、一人は友華の彼氏なんだけど。
店の前に着いたのは集合時間の15分前だった。
定時で終わったのはどうやら私だけのよう。
友華からはメールで少し遅くなるけれど、6時には行けると思うとあった。
他の二人は営業先から来るとの事。時間的には6時を回ってしまうから二人で先に飲んでいてくれと、友華を介して連絡があった。
皆、忙しいんだなあ・・・って当たり前か。年末が近くなるといつも忙しさは増してくる。そして、飲む回数も必然的に増えてきて二日酔いっぽい人もいたりして・・・。今にも吐きそうな顔色で仕事してるの見たら、気の毒に・・・と同情してしまう。接待やらなんやらで飲む機会の多い営業は、肝臓も強くないと勤まらないわね、なんて毎年その光景を見る度に思う私は事務職で良かったと胸を撫で下ろす。人事の人が間違えても営業に!なんて人材でなかったことに感謝する。私にはきっと営業は勤まらない。肝臓も強くないけれど、見た目のハッキリスッキリサッパリ!みたいな感じと違って、こう見えてもガラスのハートの持ち主。・・・自分で言うなよって感じだけど。繊細って感じじゃない。残念ながら。ただ単に、勇気と思い切りがないってだけ。どこかのキャラクターに分けてもらいたい。私に足りない勇気と思い切り。
店の中で待とうかとも思ったけれど、友華を待つ事にした。
一人で中で待っていても気まずい。
寒い乾いた風が時折吹いて、私の髪の毛をふわりと揺らしては通り過ぎる。
マフラーの隙間から入り込む冷気は冬の到来を告げているらしい。
私の心も真冬到来・・・だな。
友華を待つその時間の風の寒さに胸がチクリと痛んだ。
「ごめん!遅くなった!!」
カツカツとヒールの音を響かせて、友華は長い黒髪をなびかせて走ってきた。
別に走って来なくても大丈夫なのに。
はあはあと白い息を吐きながら、私の元に来る友華を見ながらぼんやりと見ていた。
「走んなくても大丈・・・夫・・・」
「思ってたより時間かかって。・・・って、音羽?」
動きの止まった私を怪訝そうに見ながら近づいてくる友華・・・・・の道路を挟んだ向こう側。見覚えのあるコートの人・・・・・。
「文哉・・・・・」
「えっ?」
友華が驚いたように私の視線の先に目をやると、やっぱりそこには文哉がいた。いつも来ていた黒のコートに、いつも持っていた仕事用のバッグ、そしていつも見ていた少し気の強そうな顔・・・・・。何もかもがいつも通りの文哉が反対側の歩道を歩いて行く。違うのはもう、恋人ではなくなったという事だけ・・・・・。
「仕事かな・・・」
私の呟きに友華の溜息が落ちた。分かってる。十分、分かってるよ。もう、別れた人だって。頭ではちゃんと分かってる。でも、ちょっと、胸が痛むのは仕方ないじゃない?別れたからって、はい、終わり!!って気持ちのスイッチは簡単には切れない。
「そんな切なそうな顔しないの!あいつよりもいい男捕まえるぞ!!くらいの勢いを持ちなさいよ」
「捕まえるぞって。私、ハンターじゃないし・・・」
「ハンターになれって言ってんのよ。今日は飲むわよ!覚悟しなさいよ!」
「え~」
「音羽に拒否権ないから」
ぶーと頬を膨らませる私の腕をぐいぐいと引っ張って、居酒屋の戸を開ける。
私の視線の先は文哉を追いかける。
段々と人ごみに紛れて行く姿を探すように・・・・。
けれど、探したりしなければ良かったと思った。
知らなければいい事をどうして私は知りたがってしまうんだろう。
見なければいいものを追いかけてまで探して・・・・・。