ロリポップ
 カフェオレを飲みながら私はチョコレートケーキをつつく。

 しっとりとした濃厚なチョコレートは美味しいけれど、さっきからじっと見つめている恩田君の視線を感じて落ち着かない。


「あの・・・何?」


 その視線に耐え切れなくて、たまらず聞く。


「気にしないで下さい。どうぞ、食べてください}


 にっこりと微笑まれても、気になって気になって仕方ない!


「気になるんだけど、その・・・見られると」



 そう告げると、はははっと笑ってじゃあ、と私の前で手を合わせた上に顎をのせて


「昨日、どうして何も言わず、行ってしまったんですか?」


 と、にっこりとした顔には不釣合いに、笑っていない瞳で私に聞く。


「え・・・・・」


「昨日、スーパーで会いましたよね?僕と目が合ったのに、僕が呼び止めたのに、逢沢さんはそのままいなくなってしまった。僕は正直、ショックでした・・・」


 瞳を伏せる恩田君の睫毛が影を作る。

 だって、昨日恩田君は彼女と一緒だったから・・・と言おうとして、それを言ってしまう事の意味を考えて止めた。
 そんな事を気にしているという事は、恩田君が気になるからだと自分で言うようなもの。
 彼女のいる人にそんな事を言っても、困らせるだけでしかない。
 受け入れられないと面と言われるのは耐えられない。


「・・・スッピンでそのままだったから何だか恥ずかしくて。・・・ごめんね」


 苦しい言い訳だったけど、恩田君は「そんな理由だったんですか・・・」と、体を起こした。
 

「電話の時も変でしたよね、僕は夢にまで出てこなくていいとかって・・・」


「あはは・・・寝ぼけてたから、そこらへんは覚えてないんだよね」

 笑って誤魔化せ・・・・・。
 それしか、方法はない。
 いっその事、記憶喪失って言いたいくらいだ。


「恩田君はどうして初詣に行ってなかったの?」

 
 話を逸らそうと振った話題がこれってどうよ?と自滅気味の話題に、心が折れそうになる。
 本当、今日の私は全く余裕が無い。
 情けない程に、一ミクロンの余裕さえない。

「ああ、ただ単に時間が無かったんです。急遽、頼まれた事があって。それに付き合わされて行く時間が無かった、って事です」

 
「そう、なんだ」


 頼まれたって、彼女に?

 そんな言葉が口をついて出てしまいそうだった。
 

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