ロリポップ
「そろそろ出ましょか?逢沢さん、酔ってきちゃいましたもんね」

 クスクスと笑いながら言う恩田君は、顔色一つ変わっていない。

 お酒に強いって本当みたい・・・。


 看病のお礼、と恩田君の奢りになった居酒屋さんを出て、駅までの道を歩いて行く。
 外の冷たい風に、幾分か酔いも醒めてくる。


「ごちそう様・・・私がお礼するほうが先なのに、ゴメンね」


「あ、そう言えばそうでしたね。それじゃあ、今度、ご飯食べに行きましょうね」

 自然と次の約束をしてくれる事が嬉しかった。

 でも、単純に嬉しいだけじゃない事が切ない。

 これからさきも、どんな約束も素直に嬉しいと思えないことが悲しかった。


 「ねえ・・・恩田君」


 立ち止まった私を振り返る恩田君を、まっすぐ見つめて口を開く。


「恩田君、彼女、いるんだよね?」


 ドキドキする心臓の音がうるさくて、自分の声も聞こえないくらい。
 わずかな時間の沈黙が数十分にも感じる。
 合わせた視線をやっぱり先に逸らしてしまったのは私。


「一緒に買い物、行ってたもんね」

 自分で話を振っておきながら、最後まで聞くのが怖くなった。
 
 恩田君の横を早足で通り抜ける。

「いないって言ったら?」

「・・・え?」

「彼女、いないって言ったら?」


 栗色の髪が冷たい風に吹かれて、その下の瞳がはっきりと現れる。


「彼女はいませんよ」


「え・・でも」


 スーパーの彼女は?

「莉那は僕の妹です。ちなみに双子なので、もう一人、美那と言う妹もいます。逢沢さんが見た、僕の彼女は、妹ですよ」

 楽しそうに笑う恩田君を、信じられない気持ちで見つめ返す。
 あれだけ悩んだ存在が、妹!?
 何、この漫画みたいな展開。
 そんなオチとかいらないでしょ、普通に。
 
 結局のところ、私の勘違いって事?

 ああああああああ・・・・・

 地球の裏側まで穴掘ってきます、今すぐに・・・・・。



 
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