ロリポップ
「逢沢さん?」

 道路にうずくまる私の頭上から、聞こえてくるいつものおっとりとした声。

 そっと顔を上げれば、まっすぐに見つめ返される視線に眩暈がする。


 だ、ダメよ・・・音羽!

 絶えるのよ!!!

 たとえ、そこにキスしたくなる唇があったとしても!


 飛びつきたい衝動とキスしたい衝動が押し寄せて、私を誘惑してくる。


 ダメ・・・今は、絶対にダメ!!!


 振り切るように立ち上がる。

 何事もなかったように駅に歩き出す私の後ろから、クスッと聞こえる笑い声。


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい~~~~!!!!!


「逢沢さん、逢沢さ~ん」


「な、何?」

 
 振り向いた瞬間視界が遮られ、目の前が真っ暗になる。
 それが恩田君に抱きしめられたと気づくのに、おそらく10秒はかかった。
 理解するのに更に時間がかかり、今の状況を把握するのには更にかかった。

 理解したからって動けるはずもない。

 なんて言ったって、乙女チック症候群。

 しかも末期の重症患者。

 すぐそこに、グリーンの香りを纏う恩田君がいると思うだけでちょっとしたパニック。

「ちっとも素直にならないから、どうしようかと思ったけど・・・本当に可愛い人ですね、逢沢さんって」


 ?????
 
 何を言われているのか分からないんですけど???


「逢沢さん、言っておきますけど、僕は草食系とかじゃありませんから」

 

 あれ?
   
 草食系じゃないの?

 え?待って。
 
 何?今、草食、肉食って言うの大事なところ?

 
 
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