ロリポップ
「いらっしゃいませ~」


 居酒屋の店員の元気な声が表まで聞こえた。
 友華は引っ張っていた腕を放して、予約してた戸田です、と営業のような声で店員に言っていた。その声がどこか遠くに聞こえる。


「ちょっと、音羽、自分で歩きなさいよ」


 完全に動きを止めて立ち尽くす私を引っ張りながら、友華が店の外にもう一度出てきてギョッとした顔をした。人を見といて、その反応は酷くない?


「ちょ、ちょっと、音羽、泣いてるの?」


「え・・・?」


 友華の言葉に自分が泣いている事に気づく。
 


「・・・あいつはそれだけの男だったって事なんだよ。あんな奴に音羽は勿体ない。別れて良かったんだよ」


 視線の先を追いかけて、友華は私と同じそれを見た。
 人ごみに見え隠れする文哉と知らない女の子。
 私とは全然タイプの違う可愛い感じの女の子と、笑顔を交わしながら。文哉の腕に当たり前のように白いコートの腕を絡めて。笑顔を向けて・・・・・。


「・・・そういう事・・・か」


 友華の気遣う視線に無理やりに笑顔を作る。


「今日は飲もう!飲んで飲んで飲みまくるぞ~!」


 そう言いながら泣けてきた。
 心変わりはいつからだったんだろう。
 さっき気が付いた事がある。
 彼女に見せていた笑顔を私には見せてくれなくなっていた事・・・。
 いつから見てなかった?
 それさえも思い出せない・・・。
 最近は会えば抱き合っていただけだった。
 本当は、どこか冷めていく関係に気が付いていたのかもしれない。
 だから、体の温もりでその冷め始めた関係に、離れていく心に気づかない振りをしてきたのかもれしない・・・。
 何度抱き合っても、満たされない思いがあった。
 体はくたくたになるほどに、何度も抱かれても・・・・・。
 気づこうと思えばとっくに気づけた冷めた心に。


 やっぱり私に足りないものは勇気と思い切りだ。

 痛い思いをしてやっとその事に気が付くなんて。

 今日は一人じゃなくて良かった。

 さすがに一人じゃ耐えられない・・・・・。




   

 
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