ロリポップ
おまけの恩田君の独り言
 僕の横で、まるで猫みたいに小さく丸くなって眠る彼女の髪を、そっと撫でる。

 サラサラと頬を滑り落ちた髪が首筋にかかる。
 それがくすぐったかったのか「ん・・・」と小さく声を漏らして僕に擦り寄ってくる。

 本当に猫みたいだ、と思う。

 最初に見た時は、近寄りがたいと思っていた彼女、逢沢 音羽。

 実はとても甘えたがりで寂しがりやだと知ったのは、数ヶ月前の居酒屋で飲んだ後だった。

 同じ営業課の先輩の城嶋さんと林田さん、城嶋さんの彼女の戸田さん、そして彼女、逢沢さんは同期の4人。

 その日も飲むと聞いた僕は、城嶋さんに逢沢さんを紹介してください、とお願いした。

 城嶋さんは大切な友達だから、本気じゃないなら紹介しないと言っていたけど。

 僕はもちろん、本気です!と通りの真ん中で声を張り上げた。

 そんな僕に、紹介してやるけど後は自分で何とかしろよって言って、連れて行ってくれた居酒屋。

 まさか、彼女の失恋を慰める飲み会だとは思わなかったけど・・・。

 彼女は見た目と違ってお酒に弱かった。僕は見た目よりも酒が強いとよく言われるけれど。

 ビールをジョッキで2杯飲んだ辺りでよくしゃべるようになって、焼酎を1杯飲んだ辺りでウトウトとし始める・・・嘘だろ?と始めは信じられなかった。

 城嶋さんや林田さんは飲めるのは知っていたけど、戸田さんは何倍飲んでも顔色一つ変わらない酒豪で。なのに、彼女はすでに呂律が回りきっていない。

 「おんらくん?」

 と赤い顔で呼ぶのは違反だろう?

 挙句、城嶋さんと戸田さんはお先に、と帰ってしまうし。林田さんに至っては、女の子の電話に出たきり店に戻らなくなるってのはどうなんだ!? 

 このメンバーで飲むのは安全なのか?と疑いたくなる。

 彼女に家の住所を聞いても、「おしえな~い」って。

 可愛すぎるだろう・・・。

 仕方ないから自分のマンションに連れて帰れば、まだビールのみたいって言い始めて。
 
 缶ビールを渡せば、開け損ねてワンピースにダラダラ零してるし・・・。

 挙句は僕の目の前で、濡れて気持ち悪いって脱ぎ始める始末で・・・・・。

 どれだけ僕が焦ったかなんて、本人は何にも知らないで、ブラも濡れたって・・・。

 寝室に押しやって、僕のスウェットを貸して。

 着替えるように言ったのに、最初は何の鼻歌か分からない歌を歌っていて、ぱったりと聞こえなくなったかと思ったらドスッ音がして。

 寝室を覗いてびっくりしたの何の。

 だって、彼女が床に倒れてたから・・・。

 どうしたのって抱き起こしたら、胸のキスマークが消えないのって。

 わざわざ襟を広げて、赤々と残る別れた男のキスマークを見せられた、僕の気持ちの苛立ちようは半端なかった。


< 65 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop