砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
半年近くもリーンに触れずにいた間、サクルは彼女のことばかり考えていた。

無事に生まれたあとはどうやって彼女の労をねぎらうか、あるいは、甘やかな日々を取り戻すためには何をすればよいのか。彼は真剣に計画していたのだ。

にもかかわらず、リーンは子供たちのことしか口にしない。



サクルの切実な告白にカリム・アリー堪え切れないといった様子で笑い始める。


「何が可笑しい! おまえもすぐに……」

「いえいえ、今思えば、先の陛下も同じように困惑しておいででしたね。マルヤム殿の手を借りつつ、王太后様もご自分の手で陛下をお育てになろうとなさいました」


父王は愚王ではなかったが、賢王とも言いがたい人物だった。

若いころはそれなりに覇気を見せていたようだ。しかし、後継者に恵まれなかったことが災いした。

多数の愛妃や愛妾をハーレムにはべらすようになってからは、国政は人任せになっていったという。

ただ、サクルが生まれたころにはハーレムの女主人は正妃である母ひとり。

他には女の影もなく、歳の離れた正妃――現在のヒュダ王太后にひたすら尽くしていたと聞く。


「まあ、先の陛下は四十歳をとうに回っておいででしたので、陛下ほどお困りになることはなかったかと存じますが」

「待て、カリム。だから、私は別に困っているわけではない!」

「わかっておりますよ。正妃様の愛情が他の者に……お子様たちに向いていることを嫉妬しておいでなのでしょう。また、お子様たちに対する愛情の薄さも不安なのではありませんか?」


図星を言い当てられ、サクルは閉口した。


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