砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
たしかに出会ったころに比べれば、出産によって胸も腰も豊かになっただろう。

だが、サクルはリーンの身体の変化に、文句を言ったことなど一度もない。それなのに、突然こんなことを言い出す理由も不明だ。


「湯殿でも、身体を洗うようお命じになられるだけで……わたしには触れてはくださらないし、もう……わたしの躰は求める気にもならないのだ、と」

「馬鹿な! そんなはずがないであろう」

「せめて、子供たちの世話を完璧にして、あなた様に正妃として認めていただこうと思ったのですが……」


サクルは次々と優秀な乳母を探して来て、その乳母たちに任せるよう進言した。

リーンがどれほど一生懸命にこなしても、褒められることは一切なく。それどころか、自らの手で世話をして、母乳を与える彼女を不満そうな顔で見続けた。


「わたしは王女としては育っておりません。ですから、サクルさまはそんなわたしに、大切なアサド王子とファラーシャ王女を任せたくはないのだ、と。でも、このまま夜のお召しもなくなってしまったら……わたし、どうしたらいいのか?」


肩を震わせ泣き始めるリーンに、かける言葉がみつからない。


「どうか……どうか、ここから追い出さないでください。サクルさまの愛も失い、子供たちにも会えなくなってしまったら、わたし、生きてはいられません」


次の瞬間、サクルは上座から駆け下り、リーンを抱き締めていた。

半年ぶりに触れたリーンの身体は、たしかに少しふくよかになり、それでいて変わらぬ香りがした。なんとも言えず甘く、サクルの本能を野生化してしまうような香り。

理性や分別を奪われる感覚に、彼は頭がクラクラした。


「愛している。その思いは初めて口にしたときと、なんら変わってはいない。むしろ、身体を重ねるごとに強まっているほどだ」

「本当でございますか? サクルさまがハーレムの女性に手を出されないのは、町の娼館にお気に入りの女性がいるからだ、と」


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