砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
とくに気になるという腹部に、何度も口づけて回る。彼の目には気になるような痕などみつからない。


「美しい身体だ。ああ、このうっすらとした線が子を生した痕か? これは、おまえが私の子を産んだ勲章だ。この誉れは他のどんな女にも与えん。おまえだけの名誉だ。誇りに思うがいい」


その言葉を聞くなり、リーンは瞳が零れ落ちそうなほど見開き、そして泣き始めた。


「サクルさま……わたし、もっと、もっとあなたの子供を産みます。ですから、どうか他の女性は娶らないでください」

「あ……それは……いや」


一瞬言葉に詰まる。

産むなと言えば、リーンは誤解してもっと泣き始めるだろう。産んでくれと言えば、この場は丸く収まるが、後々厄介なことになりそうだ。

そのとき、サクルは妙案を閃いた。


「リーン、もし次も双子であれば、また、おまえの命を危険に晒すことになる。幼い王子と王女から、母親を奪うような危険は犯せない。第三子、第四子は神に恵まれれば……それでよいな?」

「はい。わたしも、あの子たちを残して死にたくはありません」


リーンはウルウルした瞳でサクルをみつめる。

その瞳を見ていると、吸い込まれるように唇と……躰を重ねていた。優しく触れて、充分に潤し、時間をかけて彼自身で満たしていく。

それは初めて結ばれたときより、緊張の伴う行為となった。

ほんのわずかでも傷を負わしてはならない。リーンはサクルだけのものではなくなったのだ。それは認めて受け入れなければならない事実。

緩やかに揺さぶるとリーンは唇を噛み締め、サクルの腕をぎゅうっと掴んだ。

それは彼にもこれまでとは違う穏やかな快楽をもたらし……サクルは新たな悦びに身を浸した。


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