砂漠の舟―狂王の花嫁―(番外編)
ふと気づくと、ごく自然に王子を腕に抱いていた。


「さあさあ、姫様もお抱きくださいませ」

「お、おい……マルヤム、一度には……ひょっとして王女の瞳は茶色なのか?」

「いえ、ご存じなかったのですか? 気高き翡翠(ヤシュム)の色をしております。王太后様と同じでございますよ」


蝶(ファラーシャ)の名前を与えられた王女は、サクルの腕に抱かれるなり、この上なく幸せそうに微笑んだ。


そして、あっという間に穏やかな寝息をたて始める。


(な、なんなのだ? いや、しかし、今の微笑みは……リーンに生き写しではないかっ!?)


「王女は……リーンにそっくりだ」

「そうでございますか? 王子様のほうがよく似ておいでだと、皆は言っているのですが」

「いいや、見たであろう? あの愛らしい微笑みはリーンそのものだ。なんということだ……王女は女神(イラーハ)の生まれ変わりかもしれぬ!」

「は、はあ……しかし、まだ、お生まれになってひと月と少しですし、微笑むかどうかは……」


マルヤムが小さな声で何か言っていたが、そんなことはどうでもいい。


ひと月前と比べて、なんと重くなったことだろう。

小さく生まれたために案じていたが、アサドはサクルの命を分けた分身であり、ファラーシャはリーンの分身だ。

途端に、サクルの中で分断されていた意識に橋が架かった。




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