淡い色に染まるとき。
授業もいつも通り、休み時間もいつも通り、あとは。


放課後にあの女子生徒、内海を呼び出した。やはり、何を言われるか分かっているのか俯いたまま。


「…何言ってもダメなんでしょう?」


「…すまない」


「教師と生徒じゃなかったら、少しでも考えてくれましたか?」


「多分、それはないと思う」


恋愛をしたいと思わない。欠落してしまっているのだろうか、そんな感情を。

今はただ梓と暮らしていければそれでいい。成長する梓を見ていたい、育てていきたい。

将来、誰かを好きになり、結婚するかもしれないし、しないかもしれない。

どちらにせよ、梓が幸せだったらそれでいいとしか思えない。


「内海。俺のこと、好きになってくれてありがとう」


「そんな、こと…言わないで…」


余計好きになっちゃうよ、と泣きながら言った。

ごめん、でも言っておきたかった。俺みたいなのを好きになってくれたんだ。



「もう少しだけ、好きでいさせて」



掴まれた手をぎゅっと握り返した。

またお前を傷つけるだけかもしれない。本当はこんなのことしたらダメだってこともよく分かってる。


「ありがとう、先生」


吹っ切れたような笑顔を見せてくれた。

内海は頭を下げて、走り去っていった。


俺も教室から出ようとするといきなり腕を引っ張られた。


「上手くいったようだな」


古山先生、また…俺達の話を盗み聞きしてたのか。


呆れて何も言えずにいると、背中を強く叩かれ、早く帰れと言われた。


「娘が待ってんだろ?1人でお留守番なんて可哀想だろ」


「…ありがとうございます!盗み聞きについては明日聞きますから!」


「え、いや!ひ、人聞きの悪いこと言うなよー」


情けない声を出す古山先生を置いて、俺は走り出した。


家で待ってる娘の為に。



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