淡い色に染まるとき。
「梓、おやすみ」


おやすみ。私はまだ寝ないけれど。


彼は私が眠れないことに気付き、どうにかしようとしてくれた。だから、私は寝たフリをすることにした。

お仕事で疲れた彼にこれ以上、迷惑をかけたくないの。


目を閉じて10分くらい経った頃、彼がじっと私を見る。いつも寝たかどうか確かめている。


ごめんね、こんなお芝居して。


彼の寝息が聞こえてきて、私は静かに起きた。

部屋から出て、破り捨てた手紙が入っているゴミ箱を見つめた。


…今まで、色んなことがあったけど、彼は私を離さないって言ってくれた。




【梓は私達が育てていきます】




養護施設からの手紙と、昔私を引き取りたくなくて嫌がった人達の手紙。

今になってこんなのが来るなんて。


悔しい、悲しい。何で今更、こんなこと。


もう私は彼の娘。知らない誰かの子になるなんて嫌だ。


泣くのを我慢して、私は部屋に戻った。

彼のお布団に潜り込んで目を閉じた。彼は寝ぼけているのか、何か呟いた後にぎゅっと手を繋いでくれた。



この人が私のもう1人のお父さん。



そう思っていいんだよね?



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