淡い色に染まるとき。
梓は本を箱に入れて、元に戻すと笑顔で俺の手を掴んだ。


『遊んでくれるんでしょう?』


俺の手を引っ張ってリビングへ。

まだ泣いている俺の頬を優しく撫でて、一緒にソファーに座った。


『午前中、ゆっくりしよう?』


午後から仕事をしなければならない俺の為にそんなことを言う。

我が儘を言わない、いつも俺のことを考えてくれる。


「どっか行ったりしないのか?」


『一緒にゆっくりしたいの』


頬を膨らませて腕を掴む。

本当に俺には勿体ないくらい、いい娘だ。



午前中、梓と一緒にゴロゴロしたり、絵を描いたりして過ごした。


小さい頃の梓を思い出す。博也と絵を描いている梓が、俺の顔をじっくり見て描いてくれたんだよな。愛華は洗濯物を干しながら俺達を見て笑っていた。





『梓の絵は上手だなぁ』


『当然!将来は画家だろう!』


『いや、将来は俺のお嫁さん…』


『梓が大人になったら、お前はただのおっさんだ』


『恭お兄ちゃんのお嫁さんー?いいよー』


『ダメ!梓は、梓は俺のー!』


『恭なら梓を大事にしてくれそうねぇ。梓、良かったわね。将来の旦那様が見つかって』



あの頃のように、無邪気に絵を描く梓。

博也と愛華が残した大切な宝物。



『お父さん』


これからは何があっても守るから。


幸せそうに笑う梓に、心の中で誓った。



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