淡い色に染まるとき。
彼を落ち着かせようとしたけれど、お酒のせいでどんどんテンションが上がっていく。

彼の使っているコップを奪って、お酒入れてあげるねと嘘を吐いて水を入れた。


やはり水だと気付かずに飲んで笑っている。


「古市。あんまり飲みすぎるなよ」


『大丈夫です。お水だから』


「梓ちゃんは頭いいなぁ」


彼のコップが空になる度に私は冷たい水を入れる。

そういえば、彼はいつも缶ビール1本しか飲まなかったな。

私とお仕事のせいで飲めなかったんだよね。だとしたら、今はいっぱい飲んでもらったほうがいいのかな。


何だか申し訳ない気分になる。


『お酒、好き?』


「んー、梓が好き。ちゃーんと俺のこと考えてくれてるとことか」


やっぱりバレていたみたい。コップを揺らして笑っているのを見ると、酔いも醒めているようだ。


「梓。ありがとう」


家に帰ったら缶ビール用意しなきゃね。

たまにはいっぱい飲んでもいいんだよ。


彰さんと田端先生は、笑いながら彼の背中を強く叩いた。羨ましいな、と言いながら。


ドン引きしていた女性達も、馬鹿だねーと笑いながら話していた。


彼は愛されている。どんなに月日が経っても、それは変わらない。


お母さんもお父さんも愛されている。皆の記憶の中で生き続けている。


私も皆のように愛される人になれるかな。



「何か飲み過ぎて吐きそう…」



皆が私を嫌っても、彼だけには嫌われたくない。



『大好きだよ』



ポツリ、私は呟いてみた。声は届かないけれど、この気持ちは届いてほしい。


彼の背中を擦りながら、何度も何度も心の中で繰り返した。


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