淡い色に染まるとき。
両親が交通事故で亡くなり、身寄りがなくなって困っているところ、両親の親友だった彼が引き取ってくれた。


古市恭、24歳。職業、高校教師。


『俺がこの子を育てます』


当時の私は5歳。

おぼろげな記憶だけど、彼は一生懸命、親戚の人達に頭を下げていた。


『これから俺と暮らすんだぞ』


辛そうな顔で私の頭を撫でた、あの日。

彼の手を強く握った。


「病院、10時からだったな」


ちらりと時計を見てみると、時刻は9時30分。

病院に行きたくないと伝えてみると、彼は困った顔をした。


「治す為なんだ」


私の病気は、失声症。大きな精神的ショック、両親が亡くなったことが原因で声が出なくなった。

病院で先生と色々な話をするのだけれど、話したくないこともある。

いつまでも過去に戻って話をするのは辛い。


両親のことを思い出す度に、心臓が痛くなる。頭が痛くなる。


時々、夢にも出てきて泣いている私を抱きしめてくれる彼にはこれ以上、面倒はかけられない。それでも、病院にはどうしても行きたくない。


「嫌か?」


うん、と頷くとしばらく考え込んだ。


ごめんね、でも嫌なの。


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