淡い色に染まるとき。
「梓は家事をよくやっているので心配ないですよ。それに、お隣さんとも仲良しみたいなので1人でも大丈夫です」


花ちゃんが私と由梨さんの間に入ってくれた。

少しだけ嫌そうな顔をした由梨さんだけど、子供相手に言えないこともあるのだろう、そうねと頷いて去って行った。


花ちゃんは私の腕を掴んで部屋に向かう。


「何かされていないか、チェックしなきゃ。鍵持ってたみたいだし」


中に入ると、特に変わっていなかった。

ただひとつ、冷蔵庫の中だけは変わっていた。

お弁当箱と見慣れないビール缶が入っていた。


…モヤモヤする。嫌な気持ちになる。心臓が痛い。


「梓ちゃん、大丈夫?」


桃子ちゃんが私を支えてくれた。

泣きそうになったけど、これ以上、皆に面倒をかけたくない。


皆を見送ってから、1人になって急に寂しくなった。

時計を見上げれば、もう17時を過ぎていた。


ごはんの支度をしよう、洗濯物も…。


寂しさを消す為に、必死になって作った。必死になってやった。


それでも、寂しかった。


20時を過ぎた頃、私は初めて電話をかけた。

声が出ないから電話なんてかけたことがなかった。

彼の携帯にかけてみた。


『もしもし』


「…」


『…もしもし?梓か?』


返事が出来ないから、黙ったままになってしまう。


『何かあったのか?もうすぐ家に着くからな』


そう言って切れた。


どうして私は声が出ないんだろう。


こんなに幸せなのに。


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