淡い色に染まるとき。
電話から離れて、玄関で待つことにした。

もうすぐ帰ってくる彼に、おかえりと言う為に。


階段を上る音、歩く音、止まって扉が開く。


「ただいま。さっきの梓だったんだよな?」


頷いて力強く抱きついた。

ごめんね、急に電話して。話せないくせに。


「俺に会いたいっていうのが伝わってきたぞ」


携帯を取り出して着信履歴を見せてくれた。

自宅からの電話番号。

でも、名前が『梓』になってる。



「これからもかけてくれ。何にも用事なくても、かけてくれ」



そんなこと言われたら、毎日かけちゃうよ。

遅くなったら何回もかけちゃうかも。

無言電話になっちゃうんだよ。


「伝わってるから、梓の気持ち」


細長い指が私の頬を何度も優しく撫でた。

伝わってるよ、彼の気持ち。


彼にすべて伝えた。

由梨さんのことも、今の気持ちも、どうしてほしいのかも伝えた。


「梓、ごめん」


『とりあえず、カギ変えなきゃ』


「…なぁ、梓」


ちょっとオドオドしながら、私の頭を撫でる。


何だか迷っているような感じがする。






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