淡い色に染まるとき。
「引っ越さないか?」


引っ越し?


「あぁ、実は見つけてきたんだけど。景色良くて、ペットも飼える…」


パンフレットを鞄から取り出して、色々と広げた。

一軒家だったり、マンションだったり。

赤い丸で囲ってあるものもあった。


「ここだと梓には毒だと思う。だから、学校は変わらないけど、引っ越して」


『ここがいい』


「え?」


ここでいいの。

だって、ここは私と彼の始まりだったんだもの。


行き場のない私を引き取ってくれて、新しく始まる生活の為にと、2人で選んだアパート。


ここが2人の出発点だったんだよ。


失くしたくないの。



「…そうだったな。馬鹿だな、俺」


『ありがとう』


全部、分かってるからね。

どんなに辛いことがあっても2人で乗り越えようね。


彼の大きな胸に飛び込んで、犬や猫のように擦り寄った。


毎日、毎日、私達は飽きもせずに抱き合う。


優しい手と温かい胸の中、いつだって私は飛び込む。


いつだって彼は受け止めてくれるから。



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